神戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)15号 判決 1983年3月31日
原告
東洋シート労働組合
右代表者執行委員長
山下稔
右訴訟代理人
開原真弓
渡部邦昭
大本和則
被告
神戸地方法務局伊丹支局供託官
山下勝生
右指定代理人
吉武祐邦
外三名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一<省略>
二本件処分の適否について
<中略>
3 本件処分の適否について
(一) 供託物の還付請求に当たつては、請求者は、その権利、すなわち、還付請求の要件を充足することを証明しなければならない(法八条一項)が、この要件を充足するためには、一般に、被供託者が確定していること、被供託者の供託物に対する実体的請求権が確定していること及び被供託者の供託物に対する実体的請求権行使の条件が成就していることが必要である。
ところが、債権者不確知を理由とする供託の場合には、供託書の上では、債権者が確定していないのであるから、供託所は、供託書に記載されている被供託者(債権者)がだれであるか又は被供託者として記載されている複数の者のうちだれが正当な債権者であるかを、供託書の記載により確定することができない。
そこで、規則は、このような場合には、供託物払渡請求書に「還付を受ける権利を有することを証する書面」を添付しなければならない旨規定し(規則二四条二号本文)、還付請求者において、自ら被供託者中自己が真正の還付請求権者であることを書面により証明しなければならないものとしているのである。
(二) そこで、本件については、どのような書面が「還付を受ける権利を有することを証する書面」に当たるかについて検討するのに、
(1) 兵庫労働金庫において、旧東洋シート支部が、原告と東洋シート支部の二つの組合に分裂し、双方が正当な預金権利者であると主張して係争中であることを理由に本件弁済供託を行つたことは、前述のとおり、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件弁済供託の供託書には、供託の原因たる事実として右同趣旨の記載があることが認められる。
(2) ところで、債権者不確知を理由とする供託の場合、還付請求者において、どのような権利関係の確定を証明すれば、同人が還付を受ける権利を有することを証明できるかについては、債権者不確知の態様によつても異なるが、本件においては、前記のとおり、原告と東洋シート支部との間に債権の帰属について争いがあるとして供託が行われ、その旨供託書に記載されているのであるから、原告が還付請求をするためには、原告と東洋シート支部間において、供託の原因となつている債権が原告に帰属する旨を明らかにした確定判決、調停調書、和解調書若しくは東洋シート支部の印鑑証明書付きの承諾書、又はこれらに準ずる書面によつてその還付請求権の確定を証明しなければならないのであつて、これ以外の書面は、特段の事情のない限り、本件供託金の「還付を受ける権利を有することを証する書面」には該当しないものと解するのが相当である。
(3) ところで、本件還付請求に際し、原告が「還付を受ける権利を有することを証する書面」として、別紙添付書類目録(1)ないし(8)記載の各書面を提出したことは、当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ) 同目録(1)記載の書面(同号証の二)は、旧東洋シート支部の前の執行委員長であり、原告の組合員である訴外大川俊行個人が作成した書面であつて、旧東洋シート支部の役員改選、総評全国金属労働組合からの組織脱退及び名称変更の経過を説明し、東洋シート支部が存在せず、原告が唯一の還付請求権者である旨を証明しようとする書面である。
(ロ) 同目録(2)及び(3)記載の書面は、昭和五三年七月に行われた旧東洋シート支部の役員改選の結果を記載した書面、同目録(4)記載の書面は、昭和五四年二月に行われた旧東洋シート支部の役員改選の結果を記載した書面、同目録(5)及び(6)記載の書面は、旧東洋シート支部が上部団体である総評全国金属労働組合から脱退して組合の名称を変更する旨の臨時大会決議がされたこと及び労働金庫の闘争積立金についての質疑が行われたことを記載した議事録、同目録(7)及び(8)は、大川俊行及び原告代表者個人の印鑑登録証明書であつて、いずれも、原告と旧東洋シート支部とが同一性を有し、東洋シート支部が存在しないことを証明しようとするもの、あるいは、権利能力なき社団である原告の代表者の資格を証明しようとするものである。
右認定事実によれば、本件添付書類は、原告と東洋シート支部間において、供託の原因となつている債権が原告に帰属する旨を認めた確定判決、調停調書又は和解調書若しくは東洋シート支部の印鑑証明書付きの承諾書のいずれにも該当しないことが明らかである。
(4) なお、原告は、旧東洋シート支部が分裂した事実は存しないので、旧東洋シート支部と原告とは同一性を有し、東洋シート支部は事実として存在しないから、このような場合には、被供託者の一方の承諾書に代え、被供託者として掲げられた他の一方が存在しないことを明らかにする書面を添付すれば足りる旨主張する。
しかし、<証拠>を総合すれば、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ) 旧東洋シー卜支部は、原告肩書住所地に事務所及び伊丹分会を、広島県安芸郡海田町東海田五五八七番地に広島分会をそれぞれ置く労働組合であつた。
(ロ) 昭和五四年四月から同年五月にかけ、旧東洋シート支部が総評全国金属労働組合を組織脱退し、原告名に名称を変更するに際し、伊丹分会では反対者がいなかつたが、広島分会では、四、五名の組合員が右組織脱退に反対し、東洋シート支部名で労働組合を組織し、現在、広島において、原告との間で争訟中である。
右認定の事実に照らせば、本件全証拠によつても、原告と旧東洋シート支部とが同一性を有し、東洋シート支部が現存しない団体であるとはいまだ認め得ないから、原告の右主張は、その前提を欠くものといわなければならず、仮に、旧東洋シート支部が原告と東洋シート支部に分裂した事実がなかつたとしても、右認定の事実に前記認定の本件添付書類の記載内容及び供託書に供託の原因たる事実として記載された内容を合わせてみるときは、本件添付書類のみによつて、原告が主張するような事実が証明されているとは認め難い。
(5) 従つて、本件還付請求には、「還付を受ける権利を有することを証する書面」の添付がなかつたものといわなければならない。
(三) 本件処分の適否について
(1) <証拠>によれば、当時、被告の地位にあつた同人は、別紙添付書類目録(1)記載の文書を東洋シート支部の承諾書であると誤信した結果、本来ならば、「還付を受ける権利を有することを証する書面」の添付がないとして却下すべきであつた本件還付請求を認め、本件認可処分を行つたこと及び本件認可処分後、東洋シート名で本件認可処分に対する不服の申立てがあつたので、同人において再調査したところ、右却下すべき事由が判明したので、本件処分を行つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 以上述べたところによれば、本件認可処分を取消した本件処分は、適法な処分であるというべきである。<以下省略>
(村上博巳 笠井昇 田中敦)
(別紙)添付書類目録<省略>